※R18※  酒を呑んでも呑まれるな。とは、昔からよく言われる言葉だが。  自分は呑まれていなくても、傍の人間がコレでは、全く意味がないのではないだろうか。 「おい、本当に良いんだな」 「いいっつってんだろー」  どうしようもないな、と百目鬼は考えた。くすくすと、赤い頬をさらに上気させて四月 一日は笑っていて、その目はとろんと潤んでいる。ああ、まずい、それはちょっと。  どうせ明日になったら散々文句を言われて酷く機嫌を損ねてしまう。その機嫌を百目鬼 が回復しようとしないのはわざとだが、これ見よがしに避けられたり、バイトだなんだと 会えなくなるのも、実は結構嫌なのだ。だけれど、そんなつっけんどんで意地っ張りな振 りをして、時々廊下の端からこちらを伺っているのに気付いた時はもうどうしようもなく なったりする。そんな時が一番嬉しくて楽しいのだ、と。言ったらお前は怒るから、たぶ んこれから先ずっと、言わないでおくけれど。  良いか。そうだ、当の本人が良いといっているのだから。 「良いんだな」  もう一度だけ、四月一日と自分に確認するように声を出す。そして、今日は突然四月一 日が訪ねて来たので、もともと引いてあった自分の布団へ彼を運んだ。  歳と背丈のわりに、随分軽いんだなと改めて思いながら、けれどそんなところも全てに 早く触れたい自分にも気付いた。ザルとはいえ、侑子のペースより若干早く飲んだのが今 になって利いてきたのだということにしておく。     「ど……めき?」 「何だ」  細い肢体を布団に散らして、四月一日は百目鬼を見上げる。かっちり着込んだ制服に手 を伸ばせば、少しだけ身を捩って協力してくれた。ちなみに百目鬼は着流しなので、脱ご うと思えば一瞬で終わる。 「どうしたんだよ、いつもならそこでやるのに」  わざわざ場所を移動したことを不審がっているのだろう。  しかし残念ながら、今、それに答えるだけの余裕はない。ワイシャツの衿からそっと舌 を忍ばせ、少しだけ歯を立てたその肌の熱さに、百目鬼自身の体にもその浮かれた熱がゆ るりと這い上がった。もどかしく思いながら、ワイシャツの前を完全にはだけさせて、胸 へ顔を寄せる。頭に、四月一日の手が寄って来たのを感じながら、そのまま流されてくし ゃくしゃと撫でられた。 「ん、くすぐった――ぁ、」  寄せた髪が、四月一日の胸を掠るのがくすぐったかったのだろう。でも、そんな色気の ない台詞をここに来て吐かせる気はなくて、胸の突起に唇を添えた。途端に、声が詰まる。 「あ、んっ、や、待っ」  酒の所為で確実に反応が良い。左を舌で、右を左手でそれぞればらばらに摘まんだり吸 ったりを繰り返すうちに、ぴん、と張った飾りは今にも取れそうになった。ぞくぞくする 声と引かずに上がってくる熱に、百目鬼は観念して、予定したより少し早いと思ったけれ ど横たわる彼のベルトを外しに掛かった。  その拍子に、頭にあった両腕をするりと四月一日は百目鬼の首に絡めた。その着物の衿 に指を差し入れる。 「……っ、おい、止めろ」 「なんだよー、おれだけじゃいや。おまえもおんなじめにあえよー」  びくりと波打った百目鬼に満足したのか、四月一日は更ににっこり笑うと、何の言葉も なしに衿を押し広げた。つまり、上半身をはだけさせた。 「おい、お前、」  更に、弓道で鍛えられたその胸を、ぺたぺたと触る。しかもその手は、だんだんと下が っていく。その先には帯があって、その下には。  このまま流されるのは癪だ。  百目鬼は素早く自分の下にあるベルトとジッパーを解いて、ずぶりとトランクスの間に 手を差し入れた。左手だけは、まだ右胸を解放してやらない。片手だけで器用にその薄い 布を引き摺り下ろすと、はばかりもせずに勃ったそれと対面した。 「ん、っは、おまえのて、つめた……い、」  熱く滾った四月一日自身をつーっと指先で何度もなぞる。上から下へ、先端を一周させ てはまた下へ。手の冷たさにも反応して、充分だった屹立は更に反り返った。いつもは焦 らすようなことなど殆どしないが、今日は自分にも手をかけた仕返しとばかり、すぐには 握ってやらない。実際はすぐにでも喘がせてイかせてしまいたいけれど、でも今日は折角 だから。 「や、どめき、……ん、やあっ」 「何が嫌だ」  訊けば、ぎっとこちらを睨んでくるけれど、酒とその他の要因で潤んだ瞳で睨まれても 怖くないどころか、逆に。 「だって、おまえ、――っ、あ、あぁ、っふ、」  言いよどんでなかなか言いださないのが悪いとばかりに、右手はそのまま四月一日自身 に添えて、百目鬼はキスをした。押し倒そうと決めた時以来、今日二回目のキス。下半身 を焦らしてもねだらないのなら、口でも感じさせてやるとばかりに、深く深く舌を追いか けては絡めて、上顎を擦っては歯茎をなぞった。形のいい喉仏が、時々酸素を求めて喘ぐ 中に、確実に甘い音も混じってきたのに百目鬼は笑みを口元に浮かべる。 「何が嫌か、言ってみろ」 「いやなんじゃない、なん、で、――そんな、やさしい、」  ああ、ちゃんとこいつは判っているんだ。  どくん、と百目鬼の中に暖かい血が巡った気がした。そのまま、どくどくと暖かさが胸 から手足の先までぱあっと広がっていく。  今日、床にわざわざ移動したのも。いつもなら早くイかせてやりたくて性急に握る四月 一日自身を、今日はゆっくりなぞるだけなのも。胸を執拗に這ったのも。  嬉しい、と思う。こんなに自分のことを、なんでもないことのように考えて、判る人が 居ることが、どうしようもなく嬉しいと思った。  だから。 「……ありがとう、」  ようやく、百目鬼は這わせるだけだった右手でそれを握りこんで上下に擦った。たちま ち、四月一日の声は一トーン跳ね上がって、 「あ、ぁあ、んっ、だめ、ぁ――あっ!」  白い濁りを撒き散らした。  呼吸の整わないままの四月一日に、なだめるだけのキスを落とす。実は、割とこれはい つもやる。百目鬼とて四月一日を感じさせたいだけであっていじめたりしているつもりは 毛頭ない。だがたまに、了承を取っていても四月一日は終わった後にすねたりする。そん な反応を返されるのも楽しみの一つとしてしまっても良かったが、やはり少し虚しいので 、こういうことをするようになってしばらく後から、百目鬼は一人だけイかせた時は必ず キスを添えるようになった。大概、コレで流される事を知っている。  そのまま、触れるだけのキスを瞼、目元、額、頬と場所を変えながら、百目鬼は自らの 昂ぶりを取り出した。脱ぐ時の衣擦れにさえ危うく持っていかれそうになるのには流石に 辟易する。やはり、いつもより焦らしたせいか、こちらもあまり時間がないらしい。 「……」  キスはそのままに、百目鬼はその白濁を潤滑油にして、ゆっくりと後孔に右手を滑り込 ませていく。一回イったからか、はたまたアルコールの恩恵か、そこいはいつもより簡単 に百目鬼の指を飲み込んだ。数回抜き差しを繰り返して、様子を見ながら指を増やす。通 常より時間をかけながらも、いつもなら差し入れてすぐに触れるあそこには這わせない。 「な、んで、……っぁ、ああっ、そこ、あ、」  そのもどかしさに耐えられなくなったのだろう、四月一日は自ら緩く腰をずらして、指 が前立腺を撫でる感覚を味わった。対する百目鬼はといえば、わざと触れなかったのに、 と少々面白くない。ならば。 「後悔するなよ」  ずっ、と指を引き抜いて、間髪入れずに自らを突き入れた。 「……っ、おまえ、」 「ぅあ、あ、あぁ、どうめき、むり、っ」  何も言わなかったからか、先端を入れるのは簡単だったけれど、途中で気付いた彼の体 は途端に収縮した。おかげで、百目鬼自身がこのままイってしまいそうになる。  散々焦らしておいてそれはない。どうにか寸前でそれを留めて、百目鬼は一旦、先端を 残したままそれを抜き、そしてゆっくり腰を進めた。突然入れたお詫びとして、しっかり 一番感じるところをなぞるのも忘れない。 「んんっ、イイ、そこっ、――どうめきも、きもちいい?」  けれど。  そんなことを熱に浮かれた目で訊かれては。 「――っ、く、」  どく、と目の前の真っ白になる感覚に、達してしまったのを自覚した。  ああ、ちゃんと最後まで抱けなかったな、とだけ脳裏の端で思う。最後まで入りきらな いまま熱を吐きつづけるそれをずるりと抜いて、今度はこうしてゆっくりシたときにもち ゃんと耐えよう、と決心した。  今日のように、「誕生日を祝ってくれてありがとう」の気持ちや、その他の愛しさを乗 せて抱く時、ちゃんとそれを伝えられないのはなんだか酷く悔しいから。