※U−14誕生祝い第一段(遅い) ■06/05■ 「あれ、お前らどっかいくの?」  椎名の良く通る声が東京選抜練習後の更衣室に響いた。少し高めのその声を、本人は外 見も相まってか好きではないようだが、試合中などはディフェンスの要としての檄がよく 聞こえて助かる、というのもまた事実。  さて、そんな彼から声を掛けられた“お前ら”というのは、 「おう! ちょっと買い物になー」 「今日のは特別な用事なんだよ」 「あ、付いて来ないでね椎名。面白そうだな、って思ってるでしょ」  言わずと知れたU−14組の三人であった。  この三人がつるんで行動するのはもはや日常茶飯事であったし、今更そのくらいのこと では椎名だって尋ねたりしない。けれど。 「いや、でもお前ら行動早すぎるぞ? 練習上がってまだ十分もしてねえのに」  水野のもっともな意見が追随した。そう、今日の三人の行動にはどこか焦りというか性 急さが見られたのだ。椎名が不審がるのももっともと言える。 「えー、だって早く行かねーと店閉まる!」 「そうだね。練習が少し伸びたのが痛かったかな」  郭が左腕の腕時計にちらりと目をやって、行くよ、と二人の背中を押した。 「ちょっと、答えていかないの?」  不満そうな椎名の言に、 「……じゃあ、今日が何の日か考えてみなよ」  という言葉を残して。  数十分後、三人の姿は都内某所にあるスポーツショップにあった。自動ドアが開ききる のも待たず、若菜は店内に突進していく。 「ちょっと結人! キープ頼んでるんでしょ!?」 「走んなよー」  郭と真田の注意も聞かず、若菜はあるコーナーに辿り着くとピタッと止まった。嬉しさ からくる弾んだ息を整えることもせず、ただ目の前のものに釘付けになっている。 「あー、よかったまだあった!」 「だから大丈夫だって」 「もう、焦りすぎでしょ」  呆れた、と声音に出して二人が言うけれど、でも結局嬉しそうな若菜の前では堂々とそ れを口に出したりはしないのだった。  まあ、気持ちは分かるので。 「んじゃ、いつものとおりに」  一つのスパイクに手を伸ばしながら、若菜は二人に宣言するように口調を変えた。 「はいはい」 「どーぞ」  言われた二人も慣れたもので、口を揃えて若菜を促す。  うん、と若菜は頷くと、手に取ったスパイクをずずいっと二人の目線まで持ち上げて。 「今回は、これの半額をお願いします!」  その後ろには、若菜の満面の笑みが待っていた。 「はー、ありがと! これで念願叶ったー!」  店の店員に若干呆れられながらも会計を済ませ、三人は連れ立って店を出る。もう既に 夕日は落ちて、辺りは夕闇に呑まれていこうとしている最中だった。 「早速次の練習から履いてこうっと」 「え、でもそれ芝生用だよね?」 「次の選抜の練習場って、確か土の……」  ご機嫌で歩道を歩く若菜の発言に二人して突っ込めば、 「わぁかってるって! 今のは勢いって奴だから!」  次の瞬間には少し拗ねたような口調にになって、けれどまたすぐに浮上する。それくら いではめげないくらい、今日の若菜は楽しそうだ。思わず買ったばかりのスパイクの入っ た袋を前後に振り回してしまいそうなくらいに。 「痛って! もう、気をつけろよ」 「わ、ごめん一馬!」  けれど、ぼごっ、と変な音を立てつつそれが真田の足に当たって、ようやく若菜もテン ションを通常通りにまで戻すことになった。恐らく音からしてスパイクの入った箱が当た ったものと思われる。 「……さーてと、これで今回の俺のお強請りは終わりでーす。で、この後どうすんの?」  なんかあるなら今のうちに、と先を歩いていた若菜が振り返ると、にこり、とも、にや り、ともつかない笑いを浮かべている二人がいた。 「え、なにその顔、」  しかも英士まで、と一歩引いた若菜の腕が強制的に両脇から引っ掴まれる。 「じゃあ行きますか!」 「今日は俺らから夕飯オゴリ!!」  けれど、小さく叫ぶように両側から告げられた追加事項に、ただただ嬉しさだけが襲っ てきて、 「ありがと一馬、英士!」  こちらも叫ぶようにお礼を言うのが精一杯だった。 「あー、待って結人!」 「ちょっとソレ言うのは早いだろ?」  そう言って、二人揃って告げられた「「誕生日おめでとう!!」」に。 「ホントにありがと、」  もう一度言う羽目になったけれど。