※【スプラッターズ】…06年当時、ダーリンと二人で「ヴィルヘルムとジャックとジズと  バウムと獄卒が一緒に暮らしてたら面白くね?」「なんか凄惨なメンバーだな」「……  スプラッターズ?」みたいなノリで生み出された妄想です(笑) 「なーヴィル、ちょっとそこの醤油とって」 「貴様のところからでも届くだろうが」 「良いだろ、お前からの方が近ぇんだよ」 「生憎と取ってやる義理は無いな」 「あ? もっぺん言ってみやがれ」 「物好きだな、望むのであれば何度でも?」  ――リビング暖炉前、大破。  全く。 「どうシて貴方がたはいつもソうなのでスカ? この前ハ渡り廊下、その前はキッチン… …。そしテ今回はリビングです」  続けてつらつらとその前、あの時、更にその前……とジズは事例を並べていく。椅子に 凭れかかって優雅に足を組む彼の前には、同じ姿勢で正座させられているジャックとヴィ ルヘルムが居た。 「スこしは改善しテ頂かなイと、と何度も申し上げテいるノですがネぇ」  言葉遣いこそ丁寧なものの、片方しか伺えないその目は笑っていない。  流石に幾度もの死線を潜り抜けてきたジャックも、今度ばかりは明日の日の目は拝めな いかもしれないなぁ、とぼんやり考えた。 「しかしだな、ジズ。私は事実を言ったまでだぞ! いや、あの醤油はむしろバウムの方 に近かったのではないか?」 「違ぇよ、そういう問題じゃねぇ。人に頼まれたことも素直に聞き入れられないヴィルの 器の小ささにケチつけたんだよ俺は」 「誰が器が小さいのだ!」 「貴方達二人共ですよ」  さながら、冷水を頭から浴びせ掛けられたかのような悪寒が背筋を走った。  ぎぎっと錆びた音がするくらい恐る恐るジズを見遣ると。 「――罰を受ケていたダきましょウかねぇ」  極上の笑みを浮かべて、彼はそう言った。  だからって。 「これはどうだよ」 「この件に関してはお前と気が合うようだな、ジャック」  二人は再度、自らの格好を見て溜め息をついた。 「ただ枕もとにプレゼントを置くだけだろ? なのになんでわざわざ――」 「「サンタクロースの格好?」」  にーっこりと微笑むジズを仰ぎ見ると、 「普通の格好でハ罰にナらなイでしョう?」  と返された。  確かにそのとおりではあるが、ある、が。 「まぁ、とっとと終わらせようぜ」 「それに越したことは無いな」  とにもかくにも、二人はバウムの部屋の前に居た。この時ばかりは重厚な樫の木で出来 た扉が鉄壁の城門に見える。何せ、この中に居るのは天下の森番、バウムなのだ。少しで も物音を立てれば、鋭い鎌が寸分違わず自らの首元に落ちるだろう。 「……ジャック」 「何? ……っつーか何言われるか判った俺が嫌だ」 「ならば話は早い。ぜひとも頼みたいのだが、良いな?」  はいはい、とジャックはバウムへのプレゼントを手に取る。それを片手に軽く持つと、 「俺が行って来りゃいいんだろ? ヴィル、一つ貸しな」  そう言い放ち、瞬時のうちに姿を消した。  暗殺者が暗殺者たる理由、それは無論音を消して動けることにある。いくら殺傷能力が 高くても、音を立てて気付かれては元も子もない。その点、ジャックはまがりなりにもプ ロである。そのことを、ヴィルヘルムも判っているのだ。  このサンタクロースの格好では完全に音を消すのは難しいかもしれない。が、ジャック の普段着の方がよほど音がしそうなものなので、ここに至ってはお互い気にも留めていな かった。  どうしても軋む木の扉を避けて、ジャックはわざわざ窓まで回り込んで何の躊躇いもな く中へと侵入した。そこは信じられないことに木が生い茂り、鳥のさえずりさえ聞こえて くる異空間だ。完全に森の中と言って相違ないが、ここは一応城の中である。お前はもう ドイツへ帰れ、と全力で突っ込まざるを得ない。  そんなことをしている場合でもないのだが。 「バウムはどこかなー……っと、」  居た。切り株の上がベッドのようだ。手に鎌を携えているものの、一向に起きる気配は 無い。  ジャックは滞りなく箱を置き、ヴィルヘルムの元へと戻った。 「おお、戻ったのか」 「まぁな。にしても、どうしてジズはあの二人が欲しがる物なんて判ったんだ?」 「知らん。……案外、欲しい物ではなくて自分の贈りたい物であるかも知れんな。贈り物 は相手の意志を必要としない」 「……あげるぶんにはな」  貰った方はたまったものではないが。 「次は極卒か……」 「言わなくても判ってるよな、ヴィル?」  ヴィルヘルムは極卒宛の箱を無言で手に取ると、うろん気な目を向ける。 「……借りは返せ、ということだな?」 「宜しく」  何を隠そう、ジャックは極卒の部屋が苦手だ。  極卒は別に少々の音では起きないが、いかんせん部屋が不気味すぎる。  首が何回も外れて下に落ちるのに気付くと元に戻っているこけし、本当に髪が伸びつづ ける菊人形に、一年中出しっぱなしの雛人形。ちなみにお内裏様はジズ作という異様ぶり だ。  一度ジャックはこの部屋の人形がポルターガイスト並に騒いでいたのを見てしまい、そ れ以来寄り付こうとしなくなった。  それならば、まだ人外であるヴィルヘルムのほうが適しているだろう。彼自身は、不気 味とは思いこそすれ、入りたくないほどこの部屋を嫌ってはいないからだ。  ぎいっ、と音を上げて扉が軋む。廊下にジャックを残して、ヴィルヘルムは足を踏み入 れる。  扉が閉まると、窓からの月光のみが頼りとなった。それが余計にいけない。様々な人形 の影が浮き彫りになって、気味の悪いコントラストを奏でる。片側だけ照らし出された菊 人形がまず視界に入った。  ヴィルヘルムは早急に首を九十度回し、極卒を探す。 「……あ、」  居た。スプリングの外れたベッドの上に眠っている。  その周りは人形の山で、そもそもどうやってこの人形の波を掻き分けてベッドにたどり 着いたのか全く判らない。時が時なら土偶と王のような配置だ。  しかしヴィルヘルムは浮遊することが出来るので、あえてその疑問を気にするのを止め ると早々にプレゼントを置いて廊下へ出た。 「終わったぞ」 「ああ。……じゃぁ戻るか」  リビングには、ジズが先程と同じ姿勢で座っていた。 「あァ、お疲レ様でしタ。サさ、これは貴方ガたへデす」  サンタクロースの格好と素早くお別れして、二人はジズの差し出す箱を手に取る。風体 はバウムと極卒に渡した物と全く同じだ。ということは通常、中身も同じだろう。 「俺らにまでくれたら罰にはならねぇだろ」  というか、欲しくない。ジズの贈り物など、何があるか想像もつかない。 「何言ってルんでス、今日はクリスマスでスよ? 人に物ヲ送って何が悪イのですカ」  その言い分は間違っていない。いない、が。  ヴィルヘルムはバロック様式の高い天井を見上げる。明日もどうかこの場所に存在でき るように、誰にでもなく祈った。  その夜。  みんなの部屋に置かれた箱からは、カリカリと何かを引っかくような音が一晩中続いた という。  We wish you a Merry Christmas!